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ベトナム

地下鉄の落書き消しがもたらす効果とは

う~ん、日本人もマナーの悪い人はたくさんいますが、ベトナム人に交通マナーや公共マナーを求めるのは当分無理ですね。
個別に気遣う場面はあっても、マナーの概念はなし。
まさしく無法地帯化。

2009(H21).06.23(火)  失敗学のすすめ 畑村洋太郎


[地下鉄の落書き消しがもたらす効果とは]

 最近、ある大手メーカーのミドルの方とお会いした。彼は人事・労務畑でキャリアを積んできて、現在も関連する部門で仕事をしている。大学も含めて日本の組織には「なぜ、こんなルールがあるのだろうか?」と首をかしげたくなるものが少なくない、といった類の話をしていた際のことだった。彼は次のように語った。

「わたしは社内の嫌われ者なのですよ。労務に関するトラブルが発生したときには、当該のトラブルについて大変面倒な事実の確認を微に入り細に入りしなくてはいけません。工場内の道路でのスピード違反の取り締まりも大切な仕事です。違反した従業員の上司に対して違反者への指導を言い渡す役目も担っています」

 一般道の話ではない。広大な工場の敷地に立派な道路があり、スピードを上げて走る車があるとのことである。お酒が少なからず入っており、つい「そんな嫌な仕事、適当にやっておけばいいじゃないですか。嫌われるだけだし」と言ってしまった筆者に対して、彼は間髪入れずに答えた。

「うちは化学メーカーです。現場のちょっとしたミスがとんでもない大事故につながってしまうのです。工場の自主的なルールとはいえ違反は違反。小さなことかもしれませんが、安全にかかわるルールについては厳守する姿勢を示すことで、起こり得るミスをなくすのです」

 こちらは真っ赤な顔をしながら小さくなるしかなかった。

  • 重大なミスの裏側に潜むもの

 これはまさしく「ハインリッヒの法則」に従った行動である*1。畑村洋太郎氏の著書「失敗学のすすめ」(講談社)で注目された法則であり、別名「1=29=300の法則」と呼ばれるものである。1件の死亡や重傷といった重大な災害が発生する背景には、29件のかすり傷程度の軽度の災害があり、さらにその背後には300件ものヒヤリとしたりハットとしたりする体験があるとの考え方である。

 これを唱えたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒは、米国の損害保険会社の技術者であり、法則自体は労働災害の事例から導き出されたものだったが、事業活動全般に適用できる考え方でもあるのだ。重大事故(顕在化した重大な失敗)の発生を防止するには事前に、300件の“ヒヤリ・ハット”のような小さなミスや不注意など(潜在的失敗)を見逃さず、それぞれの場面で適切な対策を講じる必要があるとされる。

  • 小さな綻びから取り返しのつかない事態に

 これに類似する考え方に、Broken Windowsの理論がある*2。「壊れ窓理論」、「割れ窓理論」あるいはそのまま「ブロークン・ウインドウズ理論」などと呼ばれるものだ。犯罪学者のジェームス・ウィルソンとジョージ・ケリングが発表した理論で、犯罪防止につながる1つの考え方として割れ窓なる概念が用いられている。

 空きビルなどの窓の1つが割られたままで放置されていると、そのうちにビルすべての窓が割られてしまう。さらに多くの場合、そのビルだけにとどまらず、ビルがある地域全体の治安悪化、犯罪率の上昇につながってしまう。窓に限らない。壁の小さな落書きでも同様だ。ほんの小さな綻びが、思いもよらぬ大きな問題の引き金になるとの考え方である。

 窓が割れたまま、落書きが残ったままという状況が「この建物の所有者あるいは地域住民は、壊れた窓や落書きなど気に掛けていない」というシグナルを発してしまう。そして割れた窓や落書きが少しずつ増えていくのである。建物の所有者や地域住民が何の対処もしなければ、「この辺りは無法地帯だ! 落書き以外の犯罪も見逃されているに違いない。泥棒や破壊行為などやりたい放題でも許される」と考える輩をどんどんその街に呼び寄せてしまう。そして無秩序な街に落ちぶれるのだ。小さな綻びが取り返しのつかない事態を巻き起こしてしまう。

  • 地下鉄の落書き消し

 チリひとつ落ちていない道路とポイ捨てゴミだらけの道路。ポイ捨てする人が多くなるのはどちらか。結論は明らかだろう。ポイ捨てがポイ捨てを生む。そうした悪循環を防ぐために、小さな綻びの段階で手を打っておく、それが地域の警察の重要な仕事であるとの指摘がなされている。これを実際に行ったのが、1994年にニューヨーク市長に選出されたルドルフ・ジュリアーニだった。彼はニューヨークを襲った無差別テロへの対応や大統領選挙への出馬などで有名な政治家である。「犯罪の街、ニューヨーク」を「家族連れにも安心な街、ニューヨーク」に変貌させる道筋をつけたことでも名をはせた。

 ニューヨーク地区連邦検事という仰々しい肩書きの職業から市長に転じたジュリアーニだったが、就任後に取り組んだのは「地下鉄の落書き」の一掃だった。これは当初、バッシングの対象となった。いきなり重大犯罪の防止対策に手をつけられなかったため、ジュリアーニは弱腰だとやゆされてしまった。しかしながら、ジュリアーニと彼をサポートした警察幹部には信念があった。小さな犯罪を徹底的に排除していくことで、ニューヨークではどんなに小さな犯罪であれ容赦なく罰せられるとのシグナルを送り、それが安全な街作りにつながるということだ。

 初めは馬鹿にされた取り組みだったが、彼の信念は実を結ぶこととなる。数年間のうちに殺人、暴行、強盗といった凶悪な犯罪の数が激減したのだ。地下鉄の落書き対策が大きな成果を生んだのである。

  • 些細な作業が企業経営に与える影響

 ヒヤリ・ハット、あるいは1つの割れ窓。それ自体は小さな問題である。しかし、そこからの「負」の波及効果には目を光らさなければならない。経営学の研究の世界を見回すと、戦略立案におけるResource- based ViewあるいはPositioning Approach、それぞれの活用方法といった派手な研究に加えて、一見すると「小さなこと」、「些細なこと」が企業経営に与える重要性に注目した研究が登場してきている。そうした研究では、ヒヤリ・ハットなど小さな問題を見逃すべきではないという主張とともに、企業経営の本筋とは関係のなさそうな社内での些細な作業――その代表が「掃除」――が持つ役割に注目した研究も見られる。小さなことの「正」の波及効果についてだ。

 次回以降は、企業経営における「小さなこと」が持つ役割を詳しく論じていこう。

*1 この法則については、例えば以下を参照。田中宏司[2008]「ハインリッヒの法則」日本経営倫理学会編『経営倫理用語辞典』白桃書房

*2 以下を特に参考にした。マイケル・レヴィン(佐藤桂訳)[2006]『「割れ窓理論」の経営学』光文社。清水勝彦[2009]『経営の神は細部に宿る』PHP研究所

http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/0906/23/news034.html

『ITmediaエグゼクティブ』より


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